● 現代イタリア児童文学の作品

2024年03月23日

Francesco D’Adamo『Gidutta e l'orecchio del diavolo』

Giuditta e l'orecchio del diavolo : D'Adamo, Francesco, Di Biagio, Chiara:  Amazon.it: Libri

著者:フランチェスコ・ダダモ
仮タイトル」ジュディッタと悪魔の耳
出版社:Giunti
初版:2022年3月 

作家の「わたし」がアルプスの山間をドライブしている途中に
立ち寄ったカフェで、地域のお年寄りの一人ジュリオから
声をかけられ、彼が子どもだったころの
パルチザンにまつわる話を聞くという枠物語です。
(パルチザンとは、ムッソリーニのファシズム体制に
 抵抗する人たちの運動を言います)

1944年秋、ジュリオの父親はパルチザンとして
山中を転々としながら戦っていて家にはいません。
家にいるのはジュリオと弟のトニーノと母親の3人です。
ところが、ある夜、ユダヤ人の盲目の女の子がやってきます。
ジュディッタという名のその子は、
1度歩いた道は覚えてしまい、盲目とは思えない確かさで
歩くことができます。

ところで、集落から少し離れた山中に
「悪魔の耳」と呼ばれる場所がありました。
テラスのような場がレンガで作られ、
レンガの椅子もあります。そこにいると
風の音に混じって、その場にいない人の声が聞こえるため
「幽霊の声だ」と人々から恐れられていました。
実際は、遠くの町や近隣の集落で発せられた声や物音が
風に運ばれ、山の斜面に当たって反響しているからでしたが、
人々はそんなこととは知らず、恐れから近寄ろうとしませんでした。

ジュディッタは集落にまだ案内されていない道が
あることを知ると、ジュリオに案内を頼み、
「悪魔の耳」にやって来ます。
以来、暇を見つけてはジュディッタは
「悪魔の耳」に行くようになります。
行方不明になった家族の声を聞くためでした。

クリスマスが近づいてきて、山中にこもっていた
パルチザンたちがこっそりと集落に帰ってきました。
もちろん、ジュリオの父も。
ところが、それが近くに駐屯していたドイツ軍にバレて、
パルチザンたちは殺されてしまいます。
誰が密告したのか。
ジュディッタが立ち上がります。
寒さをものともせず3日間「悪魔の耳」で
風が運んでくる声を聞き、密告者を突き止めます。

ジュディッタがジュリオの元に来ることになった経緯も
ジュリオの父がパルチザンになったことも
パルチザンの帰還が密告されたことも
すべて戦争さえなければ起こらなかったことでした。
戦争がもたらした、他の大きな悲劇のせいで
見過ごされてしまっている小さな集落の悲劇を
乾いた筆致で描いた作品です。

2022年度のストレーガ・ラガッツェ・エ・ラガッツィ賞
+11の部門で賞を取った作品です。

読者対象:12歳以上
キーワード:第2次世界大戦、パルチザン、ユダヤ人迫害



a_yshtm at 10:56|PermalinkComments(0)

2023年09月01日

Giusi Quarenghi『Estate giapponese』



著者:ジューズィ・クアレンギ
   モリ
仮タイトル:日本の夏
出版社:kira kira edizioni
初版:2022年

タイトルにあるように日本の夏の風物詩を描いた絵本です。
シンプルな線と優しい色合いの絵が見開きで1枚です。
どの絵にも表紙の女の子と黒猫がいて、
プールやかき氷、花火といった日本の夏が描かれています。
そこに短い3行詩が添えられています。
韻が踏んであって、音読すると音の響きを楽しめます。
出版社のHPには、日本の俳句を思わせる形式とあって
あぁ、そうだったのか、気がつかなかったと、
ちょっと慌てました

イラストを担当しているモリ(もしかするとモーリ)さんは
台湾は台北出身のヴィジュアル・ストーリーテラーとのこと。

本書は2019年にまずフランスで出版され、
それから2022年にイタリアでされました。

読者対象:3歳以上
キーワード:日本、夏、女の子、黒猫、風物詩



a_yshtm at 10:40|PermalinkComments(0)

2023年07月03日

Annalisa Strada『Biancaneve e i sette giganti』

Biancaneve e i sette giganti (AL)

著者:アンナリーザ・ストラーダ
仮タイトル:白雪姫と7人の巨人
出版社:Piemme 
初版:2022年

タイトルからもお分かりのように
グリム童話やディズニーアニメで知られる
「白雪姫」のパロディです。

本作でも主人公の白雪姫は継母に疎んじられます。
魔法の鏡が「国で一番の美女は白雪姫」と答えたことから
継母は狩人に頼んで白雪姫を殺そうとします。

白雪姫は狩人の手から逃れ森へ分け入っていきます。
そして、7人の小人たちが暮らす家にたどり着き、
そこで楽しく暮らすのですが、
継母の魔の手から逃れるため
小人たちと暮らす家を出た白雪姫は
巨人の国に迷い込んでしまいます。

そのことを知った継母は鏡を通じて
巨人たちとコンタクトを取り、白雪姫を捕まえて
お城に連れて来るよう頼む……という筋立てで、
継母の傍若無人ぶり、巨人たちの間抜けぶりが
ユーモアと皮肉たっぷりに描かれています。

最後、継母をとっちめてやろうとお城に行く白雪姫ですが、
大きなお城を眺めているうちに、
継母にやらされていた家事の大変さを思い出し、
自分が暮らしたいのはお城ではないことに気づきます。
継母への怒りも消え、白雪姫は森に戻ります。
小人たちとの再会を喜びますが、
白雪姫は小人たちと暮らすことを選ばず、
近くに自分好みの家を建てるというところでお話が終わります。

継母との確執を乗り越え、
成長し、自律した女の子が描かれているところが
何とも現代らしいお話しです。

読者対象:小学校中学年以上
キーワード:白雪姫、巨人、パロディー


a_yshtm at 10:38|PermalinkComments(0)

2023年06月26日

Sara Piazza, Maki Hasegawa『Cinque minuti』



著者:サーラ・ピアッツァ
   マキ・ハセガワ
仮タイトル:あと5分
出版社:Il Castoro
初版:2022年

ピアはおじいちゃんとおばあちゃんの家の庭にいます。
お母さんが用事を済ませたらいっしょに家に帰る予定です。
「お母さん、あとどれくらい?」と尋ねると
「今、コーヒーを飲んでるところ。5分待って」とお母さん。
退屈したピアはベンチに寝そべって、空を見たり塀を見たり。
しばらくして、お母さんに声をかけると
「屋根裏にある箱を探さなきゃいけないの。
 5分待って」と返事。
また5分? ピアはベンチから立ち上がって
背伸びして塀の上を見てみました。
カタツムリがツノを伸ばして歩いています。

お母さんに5分待ってと言われるたびに
ピアは「もう!」と思いながらも
猫やてんとう虫を追いかけ、ついには野原に駆け出して
お母さんが「さあ、帰るわよ」と声をかけると
今度はピアが「5分待って!」と言う番に……というお話です。

ピアが少しずつ外の世界に目を向けていくのも素敵ですし、
最後にお母さんと立場が逆になるところも
一種の解放感があって、とてもいい作品です。

最後に近過去と半過去がちらっと出てきますが
ほとんど現在形で語られていますので
イタリア語を学び始めて間がない人にも
楽しんでもらえる絵本です。

読者対象:3歳以上
キーワード:庭、小さな生き物、待つ


a_yshtm at 14:43|PermalinkComments(0)

2023年05月24日

Melania Longo, Alessandro Sanna『Tana』

Hideaway (English Edition)
Longo, Melania
Red Comet Press
2023-10-03






著者:メラーニア・ロンゴ
   アレッサンドロ・サンナ
仮題:秘密基地
出版社:Il castoro
初版:2022年

「わたし」の秘密基地は細い枝と緑の葉っぱでできている。
入ってもいいのは、自分とお兄ちゃんだけ。
お兄ちゃんは足が長いから
狭い秘密基地を壊してしまうこともある。
それでも平気。二人で笑いながら修理するから。
秘密基地には懐中電灯、虫メガネ、クレヨン、
スケッチブック、ビスケット、水筒など
必要なものはそろっている。

外に出て太陽に挨拶をしたら素敵な石を探し、
夜は草の上に寝そべって星を眺め、
雪が降ったらコーヒーカップに雪を入れて飲む。

……と、とても楽しそうな秘密基地ですが、
実は子供部屋にシーツを使って作ったもので
それまでのページに描かれていた
緑の枝で編まれた基地や夜空、雪景色は
子どもたちの空想だったという仕掛けです。

お母さんが「寝る時間ですよ」とやって来て
3人でシーツを片付けている絵を背景に
「明日もまたやる?」という問いかけで終わります。

子どもの豊かな想像力、仲良しの兄と妹の様子、
優しいお母さんの愛情が、
柔らかな線と色の絵とともに語られています。

現在形と近過去のみで語られているので
イタリア語を学習し始めて間もない人にも
楽しんでもらえる絵本です。

読者対象:3~6歳
キーワード:秘密基地、ごっこ遊び



a_yshtm at 08:33|PermalinkComments(0)