2019年02月

2019年02月21日

7月の対談が会報誌に掲載されました

少し前になりますが、昨年7月22日(日)に
大阪国際児童文学館を育てる会さんの総会で
ジャンニ・ロダーリについてお話したり
現代のイタリア児童文学について
大阪国際児童文学振興財団の総括専門員でらっしゃる
土居安子さんと対談したりする機会をいただきました。

(お知らせはこちら 会のご報告はこちら

ロダーリについてお話したことを講演録という形で
会報誌121号に載せていただいたのですが
今回は対談を会報誌122号に載せていただきました。

対談も録音したものを文字起こししてくださり
(根気のいる作業なのに丁寧に文字起こししてくださり
 ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます)
それに手を入れました。

対談で取り上げた作品は以下の3点です。

ビアンカ・ピッツォルノ『あたしのクオレ』
(関口英子・訳 岩波少年文庫)
シルヴァーナ・ガンドルフィ『亀になったおばあさん』
(泉典子・訳 世界文化社)
ロベルト・ピウミーニ『ケンタウロスのポロス』
(長野徹・訳 岩波書店)

上の3つの作品をもう読まれた方もまだの方も
ぜひ対談録を手に取っていただければと思います。

対談録を読みたいけど手に入れる方法が分からないという方、
もしいらっしゃいましたら、
この記事にコメントする形でご連絡ください。



a_yshtm at 11:37|PermalinkComments(0)● お知らせ 

2019年02月19日

Angelo Petrosino『Antonio e le cose dei grandi』



著者:アンジェロ・ペトロジーノ
タイトル:アントーニオと大人の事情
出版社:Sonda
初版:2013年10月

アントーニオのお話の第2弾です。
(第1弾はこちら

第1弾から数ヶ月経ち、
春から夏にかけてのお話です。

アントーニオは第1弾で見つけた財布の持ち主から
贈られた25ユーロでマルゲリータに
お人形を買ってプレゼントしたり、
リッカルドと一緒に出かけた広場で
物乞いをしている女性から赤ちゃんを預けられ、
赤ちゃんが泣きだしたことから
大人たちに取り囲まれたり、
引っ越しの話が本当になり、アントーニオと
姉のエーリカに個室が与えられることになったりーー。

大きな事件があるわけではない、
ごくごくフツーのアントニオの毎日ですが、
少しずつアントーニオが成長し、
マルゲリータとの関係が深まっていく様子が
描かれています。

アントーニオのシリーズは現在のところ
第3弾まで出ています。




第2弾はアントーニオが両親と夏休みを山で
過ごし、トリノに帰ってきて
怪我した犬を助けて飼うことになったところで
終わっていますので、第3弾はその続きということで
きっとアントーニオは中学校に進学しているでしょう。

中学校で誰と同じクラスになるのか、
中学校の先生たちはアントーニオの
ディスレクシアを理解し、受けとめてくれるのか、
そして、マルゲリータとの関係はどうなるのか、
気になるところです。

いつか著者のアンジェロ・ペトロジーノについて
別記事を立てたいのですが、
いつになるのか分からないので、ここでちょっとだけ書いておきます。

アンジェロ・ペトロジーノは小学校の先生でした。
やがて教育関係や児童文学の雑誌に文章を書くようになり、
1989年に『La febbre di karatè(空手熱)』で
作家としてデビューします。

以来、数多くの作品を出版していますが、
最も知られているのは、ヴァレンティーナ・シリーズです。
主人公の女の子の毎日と成長を描いたものです。

ヴァレンティーナがイタリアの各州を訪ねるシリーズや
イタリアの歴史を学ぶシリーズもあります。
未読ですが、タイトルを見て、カルロ・コッローディの
ジャンネッティーノ・シリーズを思い出しました。
(こちら

ペトロジーノの作品は等身大の子どもが登場し、
雰囲気が明るいことが特徴だと言われています。
1993年にイタリア・アンデルセン賞を受賞しています。

上に挙げたヴァレンティーナのシリーズを
昔々、それこそ学生として児童文学を勉強しているころに
1、2冊読んだことがあります。
その時は、今より語学力がなかったのと、
評価の目も違っていたのとで
正直に書くと、それ程面白いと思いませんでした。
むしろ、なんでこんなにシリーズが続いているの? と
不思議に思うくらいでした。
(うろ覚えの記憶ですが)

それから何年も経って、シリーズは違えど
ペトロジーノの作品を読んでみて、
何気ない日常を描くのが上手いんだなと思いました。

特別なことが起こるわけではないし、
何か強く訴えるテーマがあるわけではない。
わたしたちの誰もが経験しそうな出来事が書かれ、
そんな毎日の中で少しずつ登場人物たちが成長したり
登場人物たちの関係が変化していったりする。

昔はこういう作品の良さがよく分からなかったのですが、
こういうのもいいな、面白いなと思うようになりました。



2019年02月15日

Angelo Petrosino『Ciao, io mi chiamo Antonio』



著者:アンジェロ・ペトロジーノ
タイトル:ちゃお、ぼくアントーニオ
出版社:Sonda
初版:2013年3月

物語の語り手はアントーニオ、10歳。
子ども向けに物語を書いている作家のお父さんと
専業主婦のお母さん、
お姉ちゃんのエーリカの4人家族だ。

ぼくは数字に強くて、2年生が始まるころには
九九を全部言うことができていた。
でも、文字には弱くて、文字が躍っているように見える。

担任の先生が心配して、このことをお母さんに言い、
心配したお母さんは別の先生のところに
ぼくを連れて行った。ちょっとしたテストをした結果、
ぼくは「ディスレクシア」だと言われた。

お母さんはショックを受けていたけど
お父さんは「ディスレクシアだってことは
馬鹿ってことではない」と言ってくれた。
ぼくもそうだと思うーー。

そんな「ぼく」こと、アントーニオの毎日が
この作品では語られている。
一人身の用務員の女性のお誕生日を祝ったり
親友のリッカルドといっしょに
500ユーロが入った財布を見つけて
警察署に届けたり、
同じマンションに住む、子ども嫌いの女性と
エレベーターの中に閉じ込められたり
転校生のマルゲリータに秘密を打ち明けられたりーー。

些細だけれども、ひとつひとつの出来事が
多彩な色どりを持っているのが読んでいて分かる。

もっとディスレクシアという側面が
クローズアップされているのかと思っていたんだけど
ー例えば『木の中の魚』のようにー
ディスレクシアについて明確に言及されるのは
最初のみだった。
途中、何度かさらっと、自分はお姉ちゃんのように
本をたくさん読まないとか
作文を書くのは苦手とか出てくるくらい。

物足りないような気もする一方で、
ディスレクシアであっても、ディスレクシアではない子どもと
変わらない毎日を送っているんだという風にも読める。

用務員の女性、同じマンションの女性、
警察副署長、車のガラス拭きをしているモロッコ人男性など
親や先生以外の大人とのかかわりを描いているところが
他の作品とは一線を画しているように思う。

所々に漫画のページもあるのが楽しい。

読者対象:小学校中学年以上
キーワード:ディスレクシア、男の子の日常



2019年02月01日

Elisabetta Gnone『Olga di carta. Il viaggio straordinario』



著者:エリザベッタ・ニョーネ
タイトル:紙のオルガ すばらしい旅 
出版社:Salani
初版:2015年11月

お母さんとおばあちゃんと森に暮らすオルガ。
内気であまりしゃべらないオルガだけれども
お話をする時だけは別。
仲良しのブルーコとミンマは、オルガのお話を
いつも楽しみにしています。
ところが、村の大人たちも
オルガのお話が好きで、こっそりと
耳をそばだてて聞いているのでした。

そして、オルガのお話は本当にあったことだろうか、
いや作り話だなどと議論するのでした。
オルガのおばあちゃんは、村の人たちが
オルガのことをあれこれ噂するのがイヤで
オルガに口をきくなとまで言い出す始末。

オルガが口を閉ざすと、太陽まで姿を隠してしまいます。
オルガが口をきかないことに気づいた村人たちは
これまたオルガのことを噂するようになり、
音を上げたおばあちゃんはオルガに話をしてもいいと言います。

再び話を始めたオルガ。
以前よりも多くの人が耳を傾けるようになり、
オルガのお話の結末を知りたくて
どきどきワクワクします。

さて、そんなオルガが話すお話とは
どんなお話なのでしょうか?
オルガのお話です。
こんな書き方をすると、
ちょっとややこしいですね。

物語のオルガは紙でできています。
自分も周りの人たちと同じようになりたい、
普通の子になりたいと思ったオルガは
高名な魔法使いに頼めば
願いを叶えてもらえると知り、
魔法使いを訪ねる旅に出ます。

旅は危険です。それに、オルガの住む村では
以前にもオルガのように魔法使いに
頼みごとをしたいと行って
村を出ていった人がいましたが、
誰も帰ってきませんでした。
それで、お母さんは反対するのですが、
オルガの決意は固く、
必ず帰ってくると言って
オルガは出かけてゆきます。

旅の途中、オルガは奇妙な人や動物に出会います。
森の中を歩き回って、さまざまな印を確認し、
地図にする人、森の美化に熱心なタヌキ、
気球に乗って、落とし物を落とし主に届ける少年、
迷子になった人を見つけては
仲間に加えるサーカスの一団……。

サーカスの一団の助けを借りて
ついにオルガは魔法使いがいる
と言われているところにたどり着きます。
魔法使いが留守だったり、
魔法使いが帰ってきても、
魔法使いが住む島まで船で
連れて行ってもらえなかったりと苦難は続きます。

ようやく魔法使いに会うことが叶い、
長年の望みを伝えると、お題が2つ出されます。
そのお題とは、
自分と同じ紙でできた女の子を探すことと
自分の才能を1つ挙げること、でした。

サーカスの一団の助けを借りて
オルガは自分のように紙でできた女の子を探します。
でも、自分みたいな女の子はいません。

自分が持っている才能は何だろうか?
オルガは問いかけます。
サーカスのメンバーのように
オルガは、羊をライオンのように唸らせることもできなければ、
綱渡りをすることも、ナイフを正確に投げることもできません。
途方に暮れるオルガに、サーカスのメンバーたちは
口々にオルガの才能を挙げてくれます。
感じがいい、お行儀が良い、責任感がある、
注意深い、動物の気持ちがよく分かる、勇敢……。

メンバーは色々挙げてくれるものの、
魔法使いが求めるのは1つだけです。
どれを選んだらいいのか、またもオルガは途方に暮れます。

そうこうするうちに魔法使いとの約束の日になります。
今度はサーカスのメンバーもついてきてくれます。
魔法使いと対面し、オルガは気付きます。
自分は唯一無二であること、
自分だからこの旅ができたこと、
自分だから素晴らしい出会いに恵まれたこと……などに。

そして、オルガは普通の子どもになることを止め、
紙でできたオルガのままでいることを選びます。

という、2つの物語が交互に語られます。
この作品が伝えていることは、物語の魅力と
自分を受け入れることです。

自己受容というのは、昨今さまざまなところで
言われているような気がします。
(もしかしたら、わたしにとってのキーワードだから
 個人的に目にしたり耳にしたりすることが
 多いだけかもしれませんが)
あるがままの自分を受け入れる。
簡単なようでいて、実はとても難しい。
正直に告白すると、わたしは未だにできていません。

紙でできたオルガのように、長い旅をして、
色んな人と出会って、時には困難にも遭ってってしないと
難しいことなのかもしれません。
実際に旅をするのではなく(いや、してもいいのですが)
旅=人生と考えれば、わたしたちは人生の中で
さまざまな人と出会い、さまざまな経験をすることで
自分を受け入れていくのかもしれない、
ーーそんなことを本書を読んで、改めて考えました。

さて、このオルガを主人公にした作品は
他に2冊出ています。シリーズになるのかもしれません。





紙でできたオルガの冒険はまだまだ続くようです。

読者対象:小学校高学年以上
キーワード:女の子、冒険、自己受容、物語の魅力