2019年01月

2019年01月23日

Fabrizio Altieri『Ridere come gli uomini』

Ridere come gli uomini
Fabrizio Altieri
Piemme
2018-01-16





著者:ファブリーツィオ・アルティエーリ
タイトルの意味:人間のように笑う
出版社:PIEMME
初版:2018年

とてもユニークで、読み応えのある作品でした。
何がユニークかと言うと、語り手として犬が登場するのです
とは言っても、可愛い、楽しいお話ではありません。

表紙の写真を見ていただくと、
奥の方には赤と黒で描かれた、炎のような木があり
空もどんよりした感じで、不穏な雰囲気です。
小さくですが、真ん中右端には
銃を構えた黒い服の男性がいます。
腕には「SS」と書かれています。

そう、物語は第二次世界大戦末期のお話です。
当時のイタリアは、ドイツ軍に占領されていました。
連合軍がシチリアに上陸し、少しずつ北上して
イタリアを解放していきました。

舞台はトスカーナです。
フランチェスコはある日、お父さんから
ワインの醸造所におつかいを頼まれます。
それも、妹のドナータを連れて、と。
ドナータは寄り道しながら歩くので
やることがいっぱいのフランチェスコとしては
一人でおつかいに行きたいところだったのですが、
お父さんにしつこく言われて、
しぶしぶドナータを連れて行きます。

ところが、帰って来ると、家の手前の木に
何かぶら下がっています。両親でした。
近所の人が通りかかり、
ナチスがやったのだと説明してくれます。
ドナータのことを尋ねていた、とも言われ
フランチェスコはドナータを連れて
急ぎおばあちゃんの家に向かいます。

ところが、途中でナチスの兵士と出くわしてしまいます。
兵士はドナータを見るなり銃を向けます。
実はドナータはダウン症候群で、
ナチスの優生政策による虐殺の対象だったのです。
何が起こっているのかよく分からないドナータ。
絶体絶命で動けないフランチェスコ。

そこに黒い犬が走ってきて、兵士に噛みつき、
二人を助けてくれます。
ウルフという名のこの犬は
逃亡者を見つけ出し、必要な場合は
急所に噛みつく訓練を受けたSSの犬でした。

ウルフは優秀な訓練犬でしたが、母親や兄弟との
愛情に満ちた、楽しい生活を忘れていませんでした。
そして、自分を訓練している男たちが
自分の家族を殺したことを知っていて
いつかこの場所から逃げ出して、
死んでしまいたいと考えていました。

ナチスの兵士たちの隙をついて逃げ出したウルフは
二人の子どもに銃を向けている兵士を見つけ、
二人を守るために兵士に噛みついたのでした。

フランチェスコとドナータは機を逃さず
すぐにその場を離れ、おばあちゃんの家へ向かいます。
無事におばあちゃんの家にたどり着きますが
おばあちゃんは二人を休ませたあと、
ここにいては危険だから、
ピサに住むおばさんのところへ行くように言います。

ついて来たウルフも加わり、
二人と一匹の逃避行が始まります。

旅の途中、兄妹は爆弾を作っている一家、
大理石の採掘場で一人残って大理石像を掘っている男性、
プッチーニが住んでいた家に残り、偉大な音楽家の
思い出を守っている男性、
地雷を踏んでしまった脱走少年兵など、
多くの人に出会って、助けられます。

一方、ウルフは自分を恐れないドナータと出会って
少しずつ人間に傷つけられた心を癒されていきます。

ドナータを殺そうとした兵士は
ドナータを殺すまでは隊に戻れないと
フランチェスコとドナータの二人を追いかけます。
二人はそのことに気づいていませんが、
ウルフは鼻が利くので気づきます。

ひたひたと迫ってくる危険をどうかわすのか、
ドキドキはらはらで、先が気になる物語運びになっています。

兄妹が出会う人たちは普通の人々です。
爆弾を作っている一家は、表向きはナチスに
爆弾を提供していますが、裏ではパルチザンに
爆弾を提供しています。
また、地雷を踏んでしまった少年の母親は
ユダヤ人の子どもを地下にかくまっています。
アメリカ軍がいるところまでたどり着いた兄妹の
通訳をかって出てくれた女性は娼婦でした。
そんな普通の人々のしたたかさ、強さも
この作品では描かれています。

そして、最後にはジェンダーも。
終盤、フランチェスコは実は女の子で
フランチェスカだということが明かされます。
おばあちゃんがピサへ送り出す直前に
男の子の方が何事もうまく行くからと
フランチェスカの髪を短く切っていたのです。
髪を切りながら、自分は若いころ、
勉強をしたかったけど、女だからってことで
勉強をさせてもらえなかった、
フランチェスカたちが大きくなったとき、
こういうことが笑い話になっていたらいいと、
説明していたのでした。

……というわけで、とっても盛りだくさんで
読み応えのある作品になっています。

戦争ということで辛い出来事も起こりますが、
ドナータの純粋な心と行動が
ウルフを癒していく様子も書かれていて
ハートウォーミングなところもあります。

これまでにユダヤ人虐殺や抵抗運動など
第二次世界大戦中に起こったことを
テーマにした作品はいろいろと読んできましたが、
優生政策について触れたものは初めてでした。

犬が語り手になる部分があることで
(そうではない部分では三人称で語られます)
物語がより重層的になっています。

本書はIBBY選定バリアフリー児童図書2019に選ばれています。

読者対象:小学校高学年以上
キーワード:ナチス、ダウン症候群、犬、逃避行



2019年01月12日

Silvana De Mari『Hania. Il regno delle tigri bianche』



著者:シルヴァーナ・デ・マーリ
タイトル:アーニア ホワイトタイガーの王国
出版社:Giunti
初版:2015年9月

本書は、シルヴァーナ・デ・マーリの最新3部作
「アーニア・サーガ」の前編となるお話です。

「7つの頂」という名の王国は、小さいけれども
賢明な王が国を治めていた。
人々は豊かで穏やかな暮らしを営んでいた。

そんな国の人々にも心配の種があった。
王が子宝に恵まれないことだった。
ようやく王妃が懐妊した。
ところが、生まれたのは女の子で、
出産時のトラブルで王妃は妊娠できない体になってしまった。

アクセンと名づけられた姫は大切に育てられ、
7歳になった時に剣術の手ほどきを受けることになった。
その相手として選ばれたのが、
王宮の鍛冶屋の息子ダルトレッドだった。

数年が穏やかに過ぎて行ったが、
ある日、狩りに出た王は
ホワイトタイガーに襲われて死んでしまう。
ホワイトタイガーと人の間にはお互いに襲わないという
約束が交わされ、長いあいだ守られていたというのに。

王を亡くした国は次々に不幸に襲われる。
伝染病が流行り、次々に人々が息を引き取った。
王の死を知った周辺国が兵を派遣し、
国境で戦いが始まった。

ダルトレッドはこの伝染病で両親を亡くし、
二人の幼い弟の面倒を見なくてはならなくなる。
仕事もなく、食べ物も尽きてしまったダルトレッドは
ついに盗みを働いてしまう。捕まって
死刑にされるところをアクセンに助けてもらう。
だが、これ以上国内にいることは叶わないと言われ、
ダルトレッドは、国を、アクセンを守るため
兵として戦おうと北の国境へ向かう。

ーーという、お話でした。

この前編の最後の方で「悪しきもの」が登場します。
この「悪しきもの」は人間を自分の思い通りにしたくて、
戦争を起こさせたり、病を流行らせたりしたのだということが
明らかにされます。ところが、7つの頂国だけうまく行かない。
それで、アクセンに女の子を産ませ、
その女の子を殺さることを思いつく。
この思いつきが本編へとつながっていくのだと思われます。

ダルトレッドはこれからどうなるのか、
アクセンから産まれた女の子はどうなるのか、
そして「悪しきもの」の企みはどうなるのか。
とても気になるところです。

シルヴァーナ・デ・マーリと言えば、
日本では『ひとりぼっちのエルフ』が翻訳されています。
主人公のエルフ、ヨーシュの純真さに時に微笑み、
時に胸打たれた読者も多いと思います。
わたしもその一人でした。

残念ながら『ひとりぼっちのエルフ』しか
日本語には訳されていませんが、とても骨太な作品を書く作家です。
調べてみると「アーニア・サーガ」は完結しているようなので
機会を見つけて本編を読んでみたいと思います。


ひとりぼっちのエルフ (ハリネズミの本箱)
シルヴァーナ・デ マーリ
早川書房
2005-12-15


Il cavaliere di luce. Hania
Silvana De Mari
Giunti Junior
2016-10-19


La strega muta. Hania
Silvana De Mari
Giunti Junior
2016-10-01


Io sono Hania
Silvana De Mari
Giunti Editore
2018-10-31




2019年01月02日

2019年スタート

新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

昨年以上に楽しいこと、笑うことの多い一年でありますように。
やりたいと思ったことがひとつでも多く叶う一年でありますように。

とりあえず、現時点でわたしがやりたいと思っていることは

・ジャンニ・ロダーリの作品と彼についての評論を読み直す
 
 2020年はロダーリ生誕100年、没後40年 という記念の年です。
 オリンピックイヤーでもあるわけですが、
 わたしにとってはロダーリイヤーです。
 やることが遅いわたしはその前の年、つまり今年から
 ぼちぼち読み直していかないと、2020年が終わるころになっても
 読み切れていないなんて事態になりそうなので、
 早め着手ということで、今年から始めることにしました。
 あいにく、第1作となる“Il libro delle filastrocche”が手元にないので
 “Il manuale del pioniere”から始めます。
 (この作品、amazonで300ユーロ で出てて
  ビックリしたんですけど、なんと ネットで
  公開されているんです ありがたや~
 読んだら、ブログにアップしていきますので
 楽しみにしていてください。

・翻訳する

 イタリアの作品を翻訳して出版するためにはレジュメを書くことは
 避けて通れない作業なのですが、レジュメを書くことばかり
 一所懸命になって訳す作業が、ここ数年
 疎かになってしまっていました。
 そういうわけで、レジュメももちろん書きますが、
 今年は訳すことに比重を置いてみることにしました。
 昨年、手すさびに訳しはじめたものをまずは完成させます。
 で、何を訳しているんだ? と思ってくださった方、
 ありがとうございます。
 関心を持っていただけてめっちゃ嬉しいです。
 こちら()にも書きましたが、2018年度国際アンデルセン賞
 作家賞にイタリアからノミネートされた
 キアラ・カルミナーティという作家の、
 “Fuori fuoco(戦火を逃れて)”という作品です。
 この作品は2016年にストレーガ・ラガッツィ・エ・
 ラガッツェ賞を受賞しています。
 (作品については別記事に改めますって書いてて
 わたし、まだ書いていませんね 
 簡単に言うと、第一次世界大戦、男たちが戦争へ出かけてしまい、
 家に残った女たちを描いた作品です。
 オーストリアの支配を受けたり、イタリアに組み入れられたりと
 変遷を経た、北イタリアのウーディネを舞台に
 少女の成長、母と祖母の確執と和解が描かれています。
 もしも、もしも、出版関係の方で読んでみたいと思われた方が
 いらっしゃいましたらコメントにご一報ください。
 (承認制にしていますので、いただいたコメントを公開せず
  こちらからご連絡させていただきます)

・古典を読む

 新しいものばかり読んでいるので、意識して古典を読もうかな、と。
 とりあえず読みたいと思っているのは『精霊たちの家』『ロリータ』
 『石蹴り遊び』『君主論』『神曲』『戦争と平和』
 『アンナ・カレーニナ』『カラマーゾフの兄弟』かな。
 いくつ読み切れるか分かりませんが、ぼちぼちと取り組んでいきます。
 今は『精霊たちの家』を読んでいます。

とりあえず、3つ。
例年思っている、もっと本を、特にイタリア語で
書かれた作品を読むとか、読書の時間を確保するとか、
今年も一緒なので省きました。

意識するだけでもちょっとできるかな~という
ゆる~い感じで取り組んでいくつもりです。

あ、そだ。2018年スタートの記事()で書いたことについて。
バレットジャーナルという手帳の書き方は
割と続けることができました。今年も続けます。
「やりたいことをやり、やめたいことをやめる」は
できたときもあれば、できないときもありました。
ま、そんなもんかなって感じです。
スペイン語の勉強は何度目かのお休みに入っています。
時期を見て再開します。

って、2018年の総括は年末にやるべきでしたね 

こんな感じでテキトーですが、今年もゆるりと
お付き合いくださいますようお願いいたします。



a_yshtm at 09:23|PermalinkComments(0)●ひとりごと